ママ3 | スティルマイン

ママ3

私は今、お下がりのTシャツを着ている。「お下がり」を着るのは子どもの頃以来ではなかろうか。「ブランド物だしどうせ誰も着ないんだから、マイン君にあげる」と、音信不通な息子のお下がりを何着かママからいただいたのだ。


今、私の胸元は大きく「AUSTRALIA」と主張している。これはブランド物なのかもしれないがそれ以上に、国だ。音信不通な息子の趣味を疑う。サイズが合わず、首が物凄く苦しい。

しかし「AUSTRALIA」を着てママの店に行くと、「似合う似合う、背が同じくらいだから」と目尻を下げてくれる。私も嬉しく思う。


ママは相変わらず独り身である私を心配してくれている。しかし確実にその「心配」は「説教」へシフトしており、「だからマイン君はダメなの」ってニコニコと存在を非難される昨今だ。


――何故私はお金を払ってまで辛い酒を飲むのか。ただでさえ通いたくないのに。

こんなふうに疑問に思った結果、ママの店から足が遠のいてしまった。しばらく通わない時期があった。


しかし最近、ママから電話がかかって来るようになった。困った声で「蛍光灯が切れちゃったのー」と言われると駆けつけ、替えてあげる紳士な私だ。
これで大丈夫、と帰ろうとするも「ありがとう、飲んでいってね」と結局酒を飲むことになり、拒否したいお通し(何日前の煮込みなのだろう)を出され、「ウッ」ってなりながら食べ、説教され、お金を払い、家に帰る。
数日経つと「棚の奥の方に出したいお皿が」と電話が来、駆けつけ、取ってあげると「飲んでいってね」となる。説教を受け、ウッとなり、お金を払い、惨めな気持ちで帰る。


ママは寂しいのだと思う。私も寂しいので気持ちは分かる。
しかし説教は嫌だし、AUSTRALIAも嫌だ。


最近は面倒なのか、「今お客さん誰もいないのー」とド直球で私を呼び出してくださるようになった。
私たち二人のためには少なくともトンチが必要だと思う。しかし私はママの店に急ぐのだと思う。