ママ2 | スティルマイン

ママ2

私が通う小料理屋のママは高齢であり足腰が不自由であるため、なかなか店を掃除できない。店はそれゆえのデンジャー・ゾーンであり、そのゾーンにはゴキブリが集まってくる。飲食店だからしょうがない、という以上にどうしょうもないゾーンだ。


先日は私が座るカウンターに並んだビール瓶、グラス、煮物、サラダ(安全な食べものシリーズ)の椀を縫うようにタプンタプン肥えたゴキブリが私の眼前を右から左へ駆けて行った。

テイク・マイ・ブレス・アウェイな私はママに小食かつ偏食であるという軟弱なイメージを持たれているため、そこに更に「ゴキブリが苦手」という情けないイメージが付加されることは非常にシャクであり、「ゴキブリが出たよ^^」と冷静を装い報告するも、「もー」とカウンターからスローに出て来、ハエ叩きを持ち追うママのそのモーションはゴキブリのそれに遥かに及ばず、なおかつ「舞うのか」といった趣もあり、ゴキブリは焼酎ボトルの合間を進み、カウンター内へと逃れていった。それを確認したママは「しょうがないわねえ」なんつって早々に討伐を諦めた。

「えええ、もっと頑張らないの!?」と言いたくもママの身体ののんびりさを知っている私はその言葉を飲み込み、目の前の食事を諦めた。「また残すの?」と悲しい顔で怒られるのが怖く、その日は早々と店を出た。


――このままでは店に通えなくなってしまう。ただでさえ行きたくないのに。


そう思い、ゴキブリ駆除セットを大量にプレゼントした。ママは喜んだが、それは単に私の身を守るためなのだ。少々申し訳なくも思う。


先日はネズミが出た。もうどうしょうも無いと思っている。