ママ | スティルマイン

ママ

近所にある小料理屋のママと、いい感じだ。いい感じといってもママは70代であるため、そういう意味ではない意味でのいい感じだ。

店はとても小さく、「おっ、味があるねえ!」といった評価には至らなかった類の何とも言えない古さがあり、汚い。衛生面がとっても不安だ。

一度多分、アサリのバター焼きでえらい目に遭った。しかしママといい感じであるため、良く火が通っていて安全そうなものをチョイスし、ドキドキしながら口に入れつつ、「無事だったようだ」と翌朝を迎える、こんな感じでスリリングに通い続けている。ママには少食かつ偏食であると思われてしまったが、「小料理屋なのにママの作る料理が恐ろしくて食べられない」という本当の理由は墓まで持って行くつもりだ。


比較的繁華街にあるのだが、平日は客が全く来ない。ママと二人でビールを飲み、カウンターで折り紙なんぞを折ったりする。ママの若い頃の話を聞いたりし、「昔はイケイケだったのよー」と言われれば「えーイケイケてー」と適当に返すようなぬるい感じで、折り紙を折ったりテレビを眺めたりしつつ、ビールと焼酎をチビチビ、ママと二人でのんびり過ごす。


何故か最近はチョンガー(やはりなんて言葉だ)である私を心配してくれ、「恋愛に勇気出さなきゃダメよ」と説教されることが多い。
先日は「どんな女性がいいの? お母さんがいいひと見つけたら教えてあげるから」なんて言われ、「ママみたいなひとがいいな、立派に自発呼吸をしている感じで」と返すと「ダメそんなこと言っちゃ。適当に選んだら痛い思いするんだから」と普通に怒られた。私は「そんなあ」と思い、何か気の利いたことを返そうとすると続けて「おっぱいが大きいひとがいいの?」なんて言われひっくり返りそうになった。とりあえず「大きさは問題でないが何故乳が唐突に」と鶴を折りながら議論になり、様々な角度から乳の重要性について話し合った。サービスで出されたイカの塩辛の絶妙なテイストにリバース寸前だった私は塩辛の存在を誤魔化しながら鶴を折りまくった。


景気が良く、ご主人がご健在だった時代はスナックも3件持っていたという。現在はシンプルなこの店一軒、ママが独りで切り盛りしている。ママは、先々のことを心配することがないように見える。
音信不通だが頑張っているはずの息子がママの自慢だ。この店はそろそろ閉めるという。私にくれないかとこっそり思っているところだ。