ありがと | スティルマイン

ありがと

近所に住む親戚の坊主(嘘つき)がどんどん大きくなっている。その成長が純粋に羨ましい。

私と彼との間にある気まずさは相変わらずのままだが、よく喋るようになったのには心底感動する。しかも独り言ばかりだ。しかも喋り方は母親の完全コピーじゃねえか。学習とは模倣だったのだ。


坊主とその両親を連れて、デパートに行った。たまには親戚のおじさんとして何か買ってやらねばならぬ。私の葬式で厄介になるかもしれないからだ。

そう思い、おもちゃ売り場に赴いた。「どれがいい」と距離を置きながら聞く私に、坊主はどんどん不機嫌になってきた。
「おもちゃ」が苦手だった私はなんとなく彼の気持ちが分かる気もし、ノリながら「これなんていいんじゃないか。ブーンて。ギューンて」と色々示すのだがどんどん俯いてしまう。

彼がおそらく勇気を振り絞って指差したのは、アンパンマンの人形だった。高い。
よし買おうとレジに行き購入し、手渡すと彼は親に促され不器用に「ありがと!」と言った。しかし心の中では「私がアンパンマンを買わされ「ありがと」と言わされるのか――」と思っていたかもしれない。

おもちゃを渡しながら、どこかで見たような風景をなぞっているように思えた。きっと色んなことはそういうことなのだろう。
坊主はアンパンマンを気に入っている、ありがとうと、後日彼の母親からメールが届いた。