熱血 | スティルマイン

熱血

中学のある時期、私はどん底だった。しょっちゅう昔を懐かしみ、「ああ、こんなノスタルジックなおっさんじゃモテない」と思いながらも過去を泳ぎまくってしまう、そんな私でも戻りたいとは全く思わないほどダークな時期なのだ。

当時の私はすっきりとグレる勇気も無いくせに地味な問題行動もあり、更に家庭で起きたどん底な事件を抱えているなど「参ったなあ」な時期だったのだけれど、そう、クール、ワッタクール!ボーイアイアム!であったのでそれを表には出せず、友人にももちろん教師にも私がひっそり抱える問題を知られることは無かった。
「酸素足りねえ!」と本当は大ピンチのくせに悠然と水底を泳ぎ、酸素を求め無様に水面でパクパクしているほかの鯉を眺め、「ふっ、ボウヤだな」と呟きたい鯉盛りだったのだ。
例えが下手だしノリで書いてしまったが、そんな感じだ。


その時期の私は友人らとつるむ時間すらも持つことができず、一人コソコソと帰宅しなければならなかった。そんな感じでぐったりしているある日の帰り道、体育教師と一緒になった。

その体育教師は20代、今思えば見事なほど典型的な熱血でありヤンチャな生徒にも本気でぶつかるタイプだった。職員室前で数人のバッド☆ボーイズたちと大立ち回りをやらかしているのを見、「うわあアチーよーこえーよ」と冷ややかに眺めたこともある。

よう、とその熱血は私に近づき、他愛もない話を始めた。私は「はあ」とか「まあ」とか適当に合わせるしかなかった――ハウ・クール! 
しかし内心、本当は酸素が足りなかったのだ。どうしょうもないイライラを抱えていて、クールでアイアム!のくせに余裕はなかった。

しばらく無言で並んで歩いた。
別れ際に熱血はそれじゃあな、と身を乗り出し、自転車にまたがったままガバッと私の頭を脇の下にはさみ、ぎゅうとしばらく締め付け、ぼそっと力強く、「がんばれよ」と言った。


がんばれよ。

なんでボクが大変なの分かったんだ。誰にも言っていない。格好悪い。格好悪い!!

ググーンと涙が鼻の奥から押し上がって来た。
熱血はしばらく私を締め付け去って行ったが、あと3秒長かったら危なかった。わあわあ泣き出していたと思う。なんだかもっと締め付けて欲しかったし先生に思いっきり抱きつきたかった。
ドラマか!キンパチか!――おのれ熱血!


心は結構イージーだ。当時の私は抱えていた問題をクールに対処できると思っていたし、「こんなこと何でもねーよ」と思い込みたかった。熱血教師なんて暑苦しいもんで、私の脳内ではただの「見事な筋肉バカ」として処理されていた。熱血ストーリーに感動するほど頭もイージーじゃないと思っていた。

油断していた。結構モロいぞ、俺。――ハウイージーアイアム!


その後私は等身大に自分のモロさとイージーさを自覚し、部屋で一人「となりのトトロ」の「おねえちゃんのバカー!」や「メイのバカっ!!」でそれこそバカみたいにわあわあ泣けるまでに成長した。立派になったもんだと思う。

私に恩師はいない。しかし当時の熱血の年齢を超えた今、彼に会ってみたいとも思う。